30年目を迎える美容師の過去、現在、そして未来㊷

とある男性美容師の過去・現在・そして未来

若い頃はどんなに忙しくても、心地よい達成感で毎日が満たされて疲れを感じることはあまりなかった。

しかし、少しづつだが体力が衰えていっているようには感じる。

夜になると頭がくらくらするような・・・。

 

当時は次回予約や駅前で配る格安チラシなどの割引で低単価で数多くのお客様をこなすことで売上が成り立っていた。

もちろん、ほぼ予約は断らない。

 

どんな仕事をしたかではなく、どれだけ売上を上げたかがすべて。

 

スタイリスト個人のリピート率なんて算出すらしていなかった。

 

このような日々を送っていると、あることを思う。

 

「これはいつまで続くのだろうか」

 

決して不満があるわけではない。

 

この働き方は若いうちは「修行」として良い経験にはなるし、スキルも上がるだろう。

しかし、長くはこの働き方はできない。

 

どこかで、一段階ステージを上げなけば・・・。

そう、単価を上げて、客数を減らす。これが必要だ。

 

しかし、低単価サロンが値上げするには、それなりの覚悟が必要だ。

いままでのお客様は、少なからず価格に惹かれて来店してるお客様も多い。

 

価格の安さで集客しているからだ。

 

価格を上げれば、失客も増えるだろう。

 

しかし、将来的にはそうしていかないとスタッフは疲弊し、退社してしまう。

 

そうすれば、残されたスタッフの負担は増し、もっと現場はきつくなる。

 

もちろん、スタイリストがやめれば自分が多く入客できるので「しめしめ」と思うスタイリストはいるだろう。

しかしこういう場合はアシスタントが離脱し「人手が減る」事がほとんど。

 

スタイリストにとってアシスタントの退社は致命的なのだ。

 

そんな中、数社が集まる会議でこんな提案が。

 

「10000円のカラー回数券を販売すべき」

 

10000円でカラーのリタッチを5回できるチケットだ。

 

これをカット施術をしない「カラーリスト」が販売し、カラーの売上はすべてカラーリストのものになる、そんな提案だ。

 

この会は某大型美容ディーラーが主催しているもので、高圧的な主催者の進行役が我々の業績等をつついて吊るし上げる事が多く、パワハラに近い最も参加したくない会議だった。

 

彼らが言うには、

「責任ある役職がハサミをおいてカラーリストに専念しないと成功しない。店長クラスはみんなハサミを置け」

こんな感じだ。

 

「で、やるの、やらないの?」

 

こんな感じで詰められる。

自分の会社でもないのに意味がわからない。

 

しかし他社は続々とカラーチケットを取り組みはじめ、過去最高の売上を上げていった。

いよいよ、我々にもその時が・・・。

 

当然、私にも本部からハサミを置くよう打診される。

私からハサミを奪ったら、何もないんだが・・・。

 

ただチケットを売りまくって、染めまくって・・・。

こんなん、なにがおもろいねん!

 

そういう気持ちだった。

やりたくないことをやる仕事ほど、苦痛なものはない。

 

私は、「やります」といいながらも、

まったくハサミを置くつもりもなく、

ほぼ無視してお客様を毎日チョキチョキしていた。

 

会社の描く方向性は、

私が思い描いている方向性とは真逆の方向に加速していっている。

そう思うようになる。

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