1店舗目は順調だった。
独立前から担当していたお客様が来てくれる。
スタッフもいる。
売上も上がる。
利益も出る。
正直、私は少し勘違いしていた。
「経営なんて、意外と簡単じゃないか」
と。
そんな時に訪れた2店舗目出店のチャンス。
もちろん断る理由なんてない。
むしろ、
「来た来た!」
という感じだった。
若い。
勢いがある。
お金も借りられる。
出店しない理由が見当たらなかった。
しかし、ここで大きな違いがあった。
1店舗目は、
私自身がお客様を連れてきていた。
スタッフもいた。
いわば、ある程度の土台があった。
でも2店舗目は違う。
ゼロからだった。
オープニングスタッフの指名客も決して多くない。
当然、私も毎日その店に立てるわけではない。
にもかかわらず、
当時の私は深く考えていなかった。
どこに出店するか。
家賃はいくらか。
駅から近いか。
その程度だった。
今なら笑ってしまうが、
商圏分析なんてしていない。
競合調査もしていない。
広告戦略もない。
マーケティングなんて言葉すら知らなかった。
ただ、
チラシを撒く。
ホットペッパーに載せる。
そして待つ。
今思えば、
経営者というより、
ただの美容師だった。
いや、
美容師ですらない。
「出店すること」が目的になっていた。
本日の動員1名。
本日の動員2名。
そして、
本日の動員0名。
予約表に誰の名前も入っていない。
静かな店内。
鳴らない電話。
暇そうにしているスタッフ。
そして、
毎月引き落とされる家賃。
それでも私は、
なぜか悲観していなかった。
不思議なことに、
続けていればお客様は増える。
その感覚だけはあった。
実際、それは間違っていなかった。
ただ問題は、
その成功体験が私をさらに勘違いさせたことだ。
「ほら、やっぱり何とかなる。」
「次もいける。」
「もっと大きくできる。」
そして私は、
また次の物件情報に飛びつく。
3店舗目も、
手頃な家賃。
悪くない立地。
悪くない条件。
気づけば、
私は”経営”ではなく、
“出店”そのものに夢中になっていた。
続く

