30年目を迎える美容師の過去、現在、そして未来㊾

とある男性美容師の過去・現在・そして未来


1店舗目は順調だった。

独立前から担当していたお客様が来てくれる。

スタッフもいる。

売上も上がる。

利益も出る。

 

 

正直、私は少し勘違いしていた。

「経営なんて、意外と簡単じゃないか」

と。


 

そんな時に訪れた2店舗目出店のチャンス。

もちろん断る理由なんてない。

 

むしろ、

「来た来た!」

という感じだった。

 

若い。

勢いがある。

お金も借りられる。

 

出店しない理由が見当たらなかった。

 


 

しかし、ここで大きな違いがあった。

 

1店舗目は、

私自身がお客様を連れてきていた。

スタッフもいた。

いわば、ある程度の土台があった。

 

でも2店舗目は違う。

ゼロからだった。

 


 

オープニングスタッフの指名客も決して多くない。

当然、私も毎日その店に立てるわけではない。

 

にもかかわらず、

当時の私は深く考えていなかった。

 


 

どこに出店するか。

家賃はいくらか。

駅から近いか。

その程度だった。

 


 

今なら笑ってしまうが、

商圏分析なんてしていない。

競合調査もしていない。

広告戦略もない。

マーケティングなんて言葉すら知らなかった。

 


 

ただ、

チラシを撒く。

ホットペッパーに載せる。

そして待つ。


 

今思えば、

経営者というより、

ただの美容師だった。

いや、

美容師ですらない。

「出店すること」が目的になっていた。


 

本日の動員1名。

本日の動員2名。

そして、

 

本日の動員0名。


 

予約表に誰の名前も入っていない。

静かな店内。

鳴らない電話。

暇そうにしているスタッフ。

 

そして、

毎月引き落とされる家賃。

 


 

それでも私は、

なぜか悲観していなかった。

不思議なことに、

続けていればお客様は増える。

その感覚だけはあった。

実際、それは間違っていなかった。

 


 

ただ問題は、

その成功体験が私をさらに勘違いさせたことだ。

 


「ほら、やっぱり何とかなる。」

「次もいける。」

「もっと大きくできる。」


 

そして私は、

また次の物件情報に飛びつく。


 

3店舗目も、

手頃な家賃。

悪くない立地。

悪くない条件。


 

気づけば、

私は”経営”ではなく、

“出店”そのものに夢中になっていた。


続く

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