毎年のように新卒を採用できていた。
少しずつスタッフも増えていく。
スタッフが増えれば、お客様を受け入れられる。
お客様が増えれば、また出店できる。
そんな循環が、少しずつでき始めていた。
私はこう思っていた。
「会社が大きくなるのは、売上ではない。」
スタッフが増えるから、会社は大きくなる。
逆に言えば、
スタッフが辞めれば、会社は縮小する。
今なら当たり前のことだが、当時はその意味を本当の意味では理解していなかった。
だから私にとって一番の課題は、
「次の店長を誰に任せるか」
だった。
当時の私は、
店長に必要なのは何だと思っていたか。
答えは、とてもシンプルだった。
売上。
売上が高い。
技術が上手い。
後輩を教えられる。
それで十分だと思っていた。
今思えば、
これも大きな勘違いだった。
3店舗目の店長に選んだのは、
独立の時から一緒に歩んできたスタッフだった。
創業時から店長を任せ、
苦しい時代も一緒に乗り越えてきた。
技術には誰よりもこだわりがある。
教育熱心。
夜遅くまで練習に付き合い、
何人ものアシスタントを育ててきた。
仕事終わりには酒を飲みながら、
将来のことも、
会社のことも、
美容業界のことも語り合った。
一緒に過ごした時間は、
誰よりも長かった。
だから迷いはなかった。
「彼しかいない。」
そう思っていた。
もちろん、
良いところばかりではない。
言葉遣いは少し荒い。
人をイジる笑いも多い。
本人に悪気はない。
だからこそ、
私は深く考えなかった。
「あれも個性だろう。」
そう片付けていた。
でも、
今振り返ると、
あの頃から違和感はあった。
オーナーの前では笑っているスタッフも、
彼がいない場所では違う表情をしていた。
私は何となく気付いていた。
でも、
見て見ぬふりをした。
いや、
見ないようにしていた。
彼を信じたかったからだ。
そして、
新店舗はオープンした。
当然ながら、
顧客ゼロ。
本店のようにはいかない。
2店舗目のようにもいかない。
売上は簡単には上がらない。
本店と2店舗目が稼いだ利益を、
新店舗へ流し続ける毎日。
今だから言える。
3店舗目単体で見れば、
決して成功とは言えなかった。
それでも私は、
そんな数字より、
「3店舗経営のオーナー」
という肩書に酔っていた。
本店がある。
2店舗目も軌道に乗った。
3店舗目もオープンした。
「俺、結構やれてるじゃないか。」
そう本気で思っていた。
でも、
会社を揺るがしたのは、
売上でも、
立地でも、
資金繰りでもなかった。
人だった。
そして、
その問題は、
静かに、
確実に、
私のすぐ足元で始まっていた。
続く。

