30年目を迎える美容師の過去、現在、そして未来 51

とある男性美容師の過去・現在・そして未来

毎年のように新卒を採用できていた。

少しずつスタッフも増えていく。

スタッフが増えれば、お客様を受け入れられる。

お客様が増えれば、また出店できる。

そんな循環が、少しずつでき始めていた。

私はこう思っていた。

「会社が大きくなるのは、売上ではない。」

スタッフが増えるから、会社は大きくなる。

逆に言えば、

スタッフが辞めれば、会社は縮小する。

今なら当たり前のことだが、当時はその意味を本当の意味では理解していなかった。

だから私にとって一番の課題は、

「次の店長を誰に任せるか」

だった。

当時の私は、

店長に必要なのは何だと思っていたか。

答えは、とてもシンプルだった。

 

 

売上。

売上が高い。

技術が上手い。

後輩を教えられる。

それで十分だと思っていた。

 

 

今思えば、

これも大きな勘違いだった。


3店舗目の店長に選んだのは、

独立の時から一緒に歩んできたスタッフだった。

 

創業時から店長を任せ、

苦しい時代も一緒に乗り越えてきた。

技術には誰よりもこだわりがある。

教育熱心。

夜遅くまで練習に付き合い、

何人ものアシスタントを育ててきた。

 

 

仕事終わりには酒を飲みながら、

将来のことも、

会社のことも、

美容業界のことも語り合った。

一緒に過ごした時間は、

誰よりも長かった。

 

 

だから迷いはなかった。

「彼しかいない。」

そう思っていた。


もちろん、

良いところばかりではない。

言葉遣いは少し荒い。

人をイジる笑いも多い。

本人に悪気はない。

 

 

だからこそ、

私は深く考えなかった。

「あれも個性だろう。」

そう片付けていた。

 

 

でも、

今振り返ると、

あの頃から違和感はあった。

 

オーナーの前では笑っているスタッフも、

彼がいない場所では違う表情をしていた。

私は何となく気付いていた。

 

でも、

見て見ぬふりをした。

いや、

見ないようにしていた。

彼を信じたかったからだ。


そして、

新店舗はオープンした。

当然ながら、

顧客ゼロ。

本店のようにはいかない。

2店舗目のようにもいかない。

売上は簡単には上がらない。

 

 

本店と2店舗目が稼いだ利益を、

新店舗へ流し続ける毎日。

 

今だから言える。

 

3店舗目単体で見れば、

決して成功とは言えなかった。

 

それでも私は、

 

そんな数字より、

「3店舗経営のオーナー」

という肩書に酔っていた。

 

本店がある。

2店舗目も軌道に乗った。

3店舗目もオープンした。

「俺、結構やれてるじゃないか。」

そう本気で思っていた。

でも、

会社を揺るがしたのは、

売上でも、

立地でも、

資金繰りでもなかった。

人だった。

そして、

その問題は、

静かに、

確実に、

私のすぐ足元で始まっていた。

続く。

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