5年前に書いた自分の記事を読み返してみた。
当時の僕は、韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター』を一気観していたらしい。
仕事しろよ、という話である。
そして2026年。
ふと当時見てた別の韓国ドラマを観た事を思い出す。
『ミセン-未生-』というドラマだ。

囲碁のプロ棋士になる夢を諦めた青年が、学歴も社会人経験もないまま大手商社に入り、理不尽な会社組織の中でもがきながら成長していく物語。
仕事ができる人間。できない人間。
上司に気に入られる人間。評価されない人間。
会社に必要とされる人間。そうではない人間。
観ていると、なんだか他人事とは思えなくなる。
僕も弱小ながら会社を経営しているので、登場人物の気持ちがそれぞれ少しずつ分かってしまう。
若い社員の気持ちも。
中間管理職の気持ちも。
そして、経営する側の気持ちも。
面倒くさい立場になったものだ。
会社は、機械が働いているわけじゃない。
5年前の記事に、ドラマのセリフを引用し、こんな言葉を書いていた。
「会社は機械が働いているんじゃない。人間が働いているんだ!」
今読み返しても、まったくそのとおりだと思う。
会社には売上がある。
利益がある。
人件費がある。
生産性というものがある。
僕自身、これまで散々数字について語ってきたし、今でも数字は大切だと思っている。
でも、売上をつくっているのは誰なのか。
お客様を笑顔にしているのは誰なのか。
数字の向こう側には、必ず人間がいる。
当たり前のことなのに、経営が苦しくなるほど、その当たり前を忘れそうになる。
そして2026年。
この話には、5年前にはなかった登場人物が加わった。
AIである。
AIが進化しても、美容師はなくならない?
5年前、僕はある雑誌の記事を引用していた。
AIに代替されにくい仕事として、美容師が紹介されていたという話だ。
理由は、技術、創造力、ホスピタリティー。
当時の僕は、それを読んで少し安心していたのかもしれない。
しかし、今は少し考え方が変わった。
AIは文章を書く。
画像をつくる。
動画を編集する。
広告のアイデアを考える。
経営数字の分析だって手伝ってくれる。
僕自身、こうしてブログを書くうえでもAIに校閲をお願いしたり、サムネをお願いしたり、まあまあ使っている。
便利である。
本当に便利。
たまに便利すぎて、こちらが何を考えていたのか忘れるぐらい便利だ。
でも、ひとつ思うことがある。
「AIに仕事を奪われない」と「お客様に選ばれ続ける」は、まったく別の話ではないか。
美容師という職業が残ったとしても、すべての美容室が残るわけではない。
すべての美容師が、今と同じように働けるわけでもない。
AIが髪を切れないからといって、自分の予約が埋まる保証など、どこにもないのだ。
人口は減る。それでも美容室は多い。
5年前、日本の人口減少について書いた。
あれから5年。
状況は好転していない。
2026年10月の人口推計では、日本の総人口は約1億2,269万人。
前年同月から約53万人減少している。
53万人。
埼玉県川口市がまるごとなくなってしまうぐらいの人口だ。
一方で、美容室の数は増え続けてきた。
厚生労働省の統計によると、2024年度末の美容所数は27万7,752施設。
従業美容師数は58万8,291人。
人口は減っているのに、美容室はこれだけある。
もちろん、地域によって事情は違う。
人口が増える街もあれば、減る街もある。
でも、美容室経営が簡単になっているとは、とても思えない。
お客様は選び放題。
美容師も、働く場所を選び放題。
経営者にとっては、集客と採用の両方で選ばれなければならない時代になった。
昔は駅前に店を出して、チラシを配って、看板を目立たせれば、ある程度お客様が来てくれた。
今はそうはいかない。
Googleマップ。
ホットペッパービューティー。
Instagram。
口コミ。
スタイリスト個人の発信。
お客様は来店する前から、ものすごい量の情報を比較している。
技術を体験してもらう前に、まず選んでもらわなければならない。
これが今の美容室の難しさだ。
SNSが上手な美容師は、売れる美容師なのか。
5年前にも書いていた。
美容師の仕事が増えた、と。
カット。
カラー。
パーマ。
接客。
技術の勉強。
そしてSNS。
今なら、そこに動画編集や個人ブランディングまで加わる。
もう美容師なのか、クリエイターなのか、よく分からない。
もちろん、発信力は大きな武器だ。
SNSがきっかけで、遠方からお客様が来てくれることだってある。
でも、僕はずっと疑問に思っている。
集客が上手な美容師と、売れる美容師は、本当に同じなのだろうか。
例えば、毎月100人の新規客を集められる美容師がいる。
一方で、新規客は少ないけれど、何年も通い続けてくれるお客様に支えられている美容師がいる。
どちらが優秀なのか。
もちろん、単純には比較できない。
新規客を集める能力も立派な実力だ。
ただ、僕が美容師として大切にしたいのは、やっぱり後者の力である。
一度来てくれたお客様に、もう一度会いたいと思ってもらえるか。
そして、何年も担当させてもらえるか。
SNSのフォロワー数は、信頼関係の深さを保証してくれない。
予約数が多いことと、お客様から長く必要とされることも、必ずしも同じではない。
発信は入口。
美容師の本当の仕事は、その先にあると思っている。
美容師の働き方も、大きく変わった。
この5年で変わったのは、お客様の行動だけではない。
美容師自身の価値観も変わった。
マンツーマンで働きたい。
自分のお客様だけを担当したい。
プライベートを大切にしたい。
会社の行事には参加したくない。
それぞれの考え方があっていいと思う。
僕自身、昔のような働き方が正しかったとは思っていない。
長時間労働。
休みの少なさ。
先輩の言うことは絶対。
あの時代に戻りたいかと聞かれれば、答えはノーだ。
ただ、ひとつだけ気になることがある。
働き方が自由になることと、人との関わりをなくすことは、同じではない。
美容師は一人でお客様を担当できる。
でも、店は一人では成り立たない。
受付でのひと言。
予約が重なったときの助け合い。
困っているスタッフへの声掛け。
お客様が気持ちよく過ごせる空気。
そういう小さなことの積み重ねが、美容室の価値をつくっている。
個人の売上が高ければ、それだけでいいのだろうか。
僕は、そうは思わない。
『ミセン』を観ていて感じたのも、そこだった。
能力のある人間が一人いれば、組織はうまくいくのか。
いや、そうではない。
人には得意不得意がある。
経験も違う。
考え方も違う。
それでも同じ目的に向かって働くから、個人では生み出せない価値が生まれる。
それが組織なのだと思う。
4店舗から1店舗になって、考え方が変わった。
僕は以前、店舗を増やすことが成長だと思っていた。
実際に4店舗まで増やした。
人も増えた。
売上も増えた。
もちろん、楽しいこともたくさんあった。
でも、うまくいかないことも山ほどあった。
そして今は1店舗。
昔の僕なら、店舗数が減ったことを後退だと考えていたかもしれない。
でも、今は違う。
店舗を増やすことよりも、今いるスタッフが安心して働けること。
お客様に長く愛されること。
そして、会社としてきちんと利益を残すこと。
そういうことのほうが、ずっと大切に思えるようになった。
規模が大きいことと、会社が強いことは違う。
売上が高いことと、働く人が幸せであることも違う。
会社は、何のために存在しているのか。
経営を続ければ続けるほど、この問いに戻ってくる。
美容師にしかできないことは、何だろう。
AIは、似合う髪型を提案できる。
髪質について説明できる。
流行のヘアスタイルを分析できる。
もしかしたら、これから先、僕たちが想像していないようなことまでできるようになるだろう。
でも、目の前のお客様が、今日は少し元気がないこと。
いつもより言葉数が少ないこと。
本当は髪型を変えたいのではなく、気持ちを変えたいのかもしれないこと。
そうしたことに気づき、どう接するかを考えるのは、今のところ人間の美容師が得意とする領域だと思う。
もちろん、AIにも相手の気持ちを推測する能力はある。
だから「人間にしかできない」と簡単に言い切るつもりはない。
ただ、実際にお客様の髪に触れ、その人の生活や人生に関わり、長い時間をかけて信頼を積み重ねていく。
そこには、単なる情報処理では説明できない価値がある。
僕たちは髪を切っている。
でも、お客様が買っているのは、髪を切るという作業だけではない。
安心感。
自信。
気分転換。
明日からまた頑張ろうと思える気持ち。
そういうものまで含めて、美容室の価値なのではないだろうか。
選ばれる美容師を育てる。それが経営者の仕事。
5年前の記事の最後に、僕はこう書いていた。
「選ばれる美容師を生み出すことが、美容室経営者に与えられた責務だ」
今でも、この考えは変わっていない。
ただ、当時よりも少しだけ、言葉の意味が深くなった気がする。
売上を上げられる美容師を育てる。
もちろん大切だ。
でも、それだけでは足りない。
お客様に信頼される美容師。
仲間から信頼される美容師。
自分の仕事に誇りを持てる美容師。
そして、年齢を重ねても美容師を続けたいと思える人。
そんな美容師が育つ会社が理想だ。
AIが進化しても。
人口が減っても。
働き方が変わっても。
最後にお客様が選ぶのは、結局「この人にお願いしたい」と思える相手なのだと思う。
5年前の僕は、美容師という職業が残ることに希望を感じていた。
今の僕は、少し違う。
美容師という仕事が残るかどうかより、僕たちが必要とされる存在であり続けられるかどうか。
そちらのほうが、ずっと重要だと思っている。
技術があるだけでは足りない。
発信力があるだけでも足りない。
そして、会社があるだけでも足りない。
人と人との間に生まれる価値を、これからも磨き続けること。
それが僕たち美容師の仕事であり、経営者の仕事なのだろう。
会社は機械が働いているんじゃない。
人間が働いているんだ。
5年前に書いたこの言葉。
AIが当たり前になった2026年だからこそ、もう一度、自分自身に言い聞かせておきたい。
なんてね。
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