気がついたらなんと60話まで、この物語を書いてきた。
ずいぶん端折ったとはいえ、
よくこんなに書くことがあったなと思う。
上京して、
美容師になって、
店長になって、
独立して、
一店舗だった店が増えていった。
スタッフも増えていった。
自分の会社が少しずつ大きくなっていくのが、
ただただ嬉しかったし、
そのまま突き進むことしか考えなかった。
でも、
この物語をここまで読んでくれた人なら、
その先を知っている。
増えた店舗は、
一つ、また一つと減っていった。
スタッフも、
一人、また一人と離れていった。
売上が落ちた。
お金もなくなった。
自信もなくした。
私はこの59話まで、
そんな自分のことばかりを書いてきた。
でも、
この過去と現在の話を一旦ここで区切るなら、
最後に書いておきたい人たちがいる。
今も、一緒に働いてくれているスタッフたちだ。
彼らは、
会社が大きくなっていく姿だけを見てきたわけではない。
新しい店ができる。
スタッフが増える。
売上が上がる。
そんな景色も見てきた。
でも、そのあと、
店がなくなるところも見た。
仲間が辞めていくところも見た。
会社が小さくなっていくところも見た。
きっと、
不安だったと思う。
「この会社、大丈夫なのかな」
そう思ったことも、
一度や二度ではなかっただろう。
私に聞けなかったことも、
たくさんあったと思う。
それでも、
今も、ここにいてくれている。
当たり前じゃない。
この59話を書いてきて、改めてそう思う。
経営者だから、
「スタッフを守る」
なんて言ってきた。
でも、
本当は逆だったのかもしれない。
苦しい時期、
会社を支えてくれたのは、
今も店に立ってくれているスタッフたちだった。
お客様が来てくれるのも、
店が営業できるのも、
会社が今日まで続いているのも、
みんなが働いてくれたからだ。
だから、
今いるスタッフには、
ちゃんと言いたい。
残ってくれて、ありがとう。
そして、
もう一人。
この物語を書くうえで、
絶対に書かなくてはいけない人がいる。
妻だ。
おそらく、
私以上に私の会社を心配してきた人だと思う。
私が、
「店を出す」
と言えば、
応援してくれた。
求人も協力してくれた。
本当は、死ぬほど不安だったろだろう・・・。
借金が増える。
本当は、死ぬほど不安だったろだろう・・・。
スタッフが辞めれば、
落ち込んでいる私の話を聞いてくれた。
本当は、死ぬほど不安だったろだろう・・・。
そして、店を手放すことに。
本当は、死ぬほど不安だったろだろう・・・。
経営者である私は、
自分で決めたことだ。
失敗しても、
自分の責任だと言える。
でも妻は違う。
自分が決めたわけでもないのに、
私が背負った借金も、
会社の不安も、
辞めていくスタッフのことも、
ずっと隣で見続けなければならなかった。
どれだけ、心配をかけ、不安にさせただろうか。
「大丈夫」
私は何度となく、
根拠もなくそう言っただろう。
たぶん、
全然大丈夫じゃなかった。
それでも、
妻はずっとそばにいてくれた。
成功したときだけじゃない。
むしろ、
うまくいかなくなってからのほうが長かった。
それでも、
離れずにいてくれた。
だから、
ただただ、
ありがとう。
そして、
たくさん心配をかけて、ごめん。
今さらだけど、
ちゃんと書いておきたい。
私はこの物語の中で、
たくさんの人との出会いと別れを書いてきた。
離れていった人たちからも、
たくさんのものをもらった。
そして、
今もそばにいてくれる人たちからは、
それ以上のものをもらい続けている。
店舗の数でもない。
スタッフの人数でもない。
売上でもない。
59話かけて、
ようやく気づいたことがある。
会社にとって一番大切なのは、
大きくすることではなく、
一緒に歩いてくれる人を大切にすることなのかもしれない。
ずいぶん遠回りした。
高い授業料も払った。
失ったものも、
たくさんある。
でも、
店に行けば、
一緒に働いてくれる仲間がいる。
家に帰れば、
妻がいる。
だったら、
それで十分じゃないか。
そう思えるようになった。
私はこれから、
何店舗つくるとか、
何人の会社にするとか、
そんなことはもうわからない。
また失敗するかもしれない。
たぶん、
これからも妻を心配させるだろう。
スタッフに、
「社長、また何か始めたよ」
なんて思われることもあるだろう。
それでも。
今度は、
大きくすることばかりを考えるのではなく、
今そばにいる人たちと、
できるだけ長く、一緒に笑っていられる会社をつくりたい。
それが、
今の私が思う「成長」なのかもしれない。
60話。
ここで、この物語を一度区切ろうと思う。
もちろん、
私の美容師人生が終わるわけではない。
残念ながら、
まだまだ続く。
だから最後は、
経営者らしい言葉でも、
格好いい言葉でもなく、
これだけでいい。
今も一緒に働いてくれているみんなへ。
そして、
ずっと隣で支えてくれた妻へ。
本当に、ありがとう。
そしてこれからも、
よろしくお願いします。

