30年目を迎える美容師の過去、現在、そして未来 vol.59

とある男性美容師の過去・現在・そして未来

あっけないものだ。

 

 

多額の融資を受けて、店を出した。

多額の求人費をかけて、スタッフを集めた。

多額の広告費を使って、お客様を集めた。

 

 

そして、

スタッフを守るために、必死に会社を大きくしようとした。

 

 

それが自分を成長させることだと思っていた。

前に進むことだと思っていた。

 

拡大こそ、成長。

 

 

そう信じて歩んできた数年間が、

あっという間に消えた。

 

多くのスタッフを失った。

多くの資金を失った。

そして、

多くの時間も失った。

 

 

残ったのは、

「虚しさ」

そして、

望んで手に入れたわけではない、

「失敗の経験」だった。

 

 

 

そんなとき、何度も頭をよぎった。

「はじめから店なんて増やさずに、一店舗で満足していれば……」

もしかしたら、

そのほうが、みんな幸せだったんじゃないか。

 

 

そんなことまで考えた。

 

 

私に出会わない人生のほうが、

離れていったみんなにとって、

もっと幸せだったんじゃないか、と。

 

 

前に進むことしか考えていなかった、未熟な頃。

 

私はきっと、

自分では覚えてもいないような些細な一言で、

誰かを傷つけたり、

失望させたり、

悲しませたりしたのだろう。

 

 

離れていくべくして、

離れていった人もいたのだと思う。

 

これまで離れていった多くのスタッフの中には、

私のことを忌み嫌っている人もいるだろう。

 

 

恨んでいる人だって、いるかもしれない。

 

 

それでも。

ほんの少しでいい。

 

 

私と出会ったことで、

何か一つでも得たものがあったと思ってくれていたら。

 

 

それだけで、

少し救われる。

 

 

そして、これは嘘ではない。

 

 

私は、

離れていったスタッフを誰一人として嫌っていない。

 

 

まあ、

信じてもらえないかもしれないけど。

 

 

みんながいてくれなければ、

この会社はもっと早くに潰れていた。

 

 

みんながいてくれたから、

10年以上、会社を続けることができた。

 

 

みんながいてくれたから、

今でも希望を捨てずに、

 

笑って前に進もうと思える。

 

 

大げさに聞こえるかもしれないが、

みんなのおかげで、今の私がいる。

 

 

たくさん失った。

 

 

でも、

失ったからこそ、得たものもある。

 

 

「地に足がついた」

とでも言えばいいのだろうか。

「足るを知る」

とでも言えばいいのだろうか。

 

 

うまく言葉にはできないけれど、

以前とは明らかに違う感覚がある。

 

 

店の数。

スタッフの数。

売上。

規模。

 

 

そういうものを追いかけることだけが、

前に進むことではない。

 

 

大きくなることだけが、

成長ではない。

 

 

それを知るために、

ずいぶん高い授業料を払った。

 

「無能な経営者」と笑うがいい。

 

 

でも――

残念ながら、

私はまだ、くたばってなどいない。

 

 

私は案外、しぶとい。

そして、しつこい。

 

 

そうやって30年、

この業界に寄生してきたんだからな。

 

 

だから、

まだもう少し、

やってやろうと思っている。

 

 

いつか。

離れていったみんなと、

「あの頃はいろいろあったよな」

なんて笑いながら、

楽しく酒でも飲める日が来たらいい。

 

 

そんな日が来るかどうかは、

わからないけれど。

 

 

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