あっけないものだ。
多額の融資を受けて、店を出した。
多額の求人費をかけて、スタッフを集めた。
多額の広告費を使って、お客様を集めた。
そして、
スタッフを守るために、必死に会社を大きくしようとした。
それが自分を成長させることだと思っていた。
前に進むことだと思っていた。
拡大こそ、成長。
そう信じて歩んできた数年間が、
あっという間に消えた。
多くのスタッフを失った。
多くの資金を失った。
そして、
多くの時間も失った。
残ったのは、
「虚しさ」
そして、
望んで手に入れたわけではない、
「失敗の経験」だった。
そんなとき、何度も頭をよぎった。
「はじめから店なんて増やさずに、一店舗で満足していれば……」
もしかしたら、
そのほうが、みんな幸せだったんじゃないか。
そんなことまで考えた。
私に出会わない人生のほうが、
離れていったみんなにとって、
もっと幸せだったんじゃないか、と。
前に進むことしか考えていなかった、未熟な頃。
私はきっと、
自分では覚えてもいないような些細な一言で、
誰かを傷つけたり、
失望させたり、
悲しませたりしたのだろう。
離れていくべくして、
離れていった人もいたのだと思う。
これまで離れていった多くのスタッフの中には、
私のことを忌み嫌っている人もいるだろう。
恨んでいる人だって、いるかもしれない。
それでも。
ほんの少しでいい。
私と出会ったことで、
何か一つでも得たものがあったと思ってくれていたら。
それだけで、
少し救われる。
そして、これは嘘ではない。
私は、
離れていったスタッフを誰一人として嫌っていない。
まあ、
信じてもらえないかもしれないけど。
みんながいてくれなければ、
この会社はもっと早くに潰れていた。
みんながいてくれたから、
10年以上、会社を続けることができた。
みんながいてくれたから、
今でも希望を捨てずに、
笑って前に進もうと思える。
大げさに聞こえるかもしれないが、
みんなのおかげで、今の私がいる。
たくさん失った。
でも、
失ったからこそ、得たものもある。
「地に足がついた」
とでも言えばいいのだろうか。
「足るを知る」
とでも言えばいいのだろうか。
うまく言葉にはできないけれど、
以前とは明らかに違う感覚がある。
店の数。
スタッフの数。
売上。
規模。
そういうものを追いかけることだけが、
前に進むことではない。
大きくなることだけが、
成長ではない。
それを知るために、
ずいぶん高い授業料を払った。
「無能な経営者」と笑うがいい。
でも――
残念ながら、
私はまだ、くたばってなどいない。
私は案外、しぶとい。
そして、しつこい。
そうやって30年、
この業界に寄生してきたんだからな。
だから、
まだもう少し、
やってやろうと思っている。
いつか。
離れていったみんなと、
「あの頃はいろいろあったよな」
なんて笑いながら、
楽しく酒でも飲める日が来たらいい。
そんな日が来るかどうかは、
わからないけれど。


