30年目を迎える美容師の過去、現在、そして未来 vol.54

とある男性美容師の過去・現在・そして未来

 

 

新型コロナウイルス。

 

今となっては、

あの頃の異様な空気を正確に思い出すことの方が難しい。

 

マスクがない。

消毒液がない。

学校が休みになる。

イベントが次々と中止になる。

 

 

テレビをつけてもコロナ。

ネットを見てもコロナ。

誰かが咳をしただけで、

周囲が少し身構える。

 

そんな毎日だった。

 

そして私たち美容師も、

当然、その渦の中にいた。

 

ただ、

美容室には少し特殊な事情があった。

 

「休業してください」と言われなかったのだ。

 

緊急事態宣言が出た。

不要不急の外出は控えてください。

人との接触を減らしてください。

 

そう言われる一方で、

美容室は休業要請の対象にはならなかった。

 

これが、

経営者として本当に困った。

 

休むべきなのか。

営業するべきなのか。

お客様を守るなら休んだ方がいいのか。

 

スタッフを守るなら?

でも、

店を閉めれば売上はゼロになる。

 

売上がゼロになっても、

家賃はなくならない。

スタッフの給料も払わなければならない。

 

 

そして何より、

当時は誰も知らない。

 

一週間後どうなっているのか。

一カ月後どうなっているのか。

 

 

この騒動が、

いつ終わるのか。

 

正解を知っている人間が、どこにもいなかった。

 

他の美容室を見てもバラバラだった。

 

休業する店。

営業時間を短縮する店。

予約数を減らす店。

通常営業を続ける店。

 

 

SNSを開けば、

「お客様とスタッフの安全を第一に休業します」

という美容室がある。

 

一方では、

「スタッフの生活を守るため営業を続けます」

という美容室もある。

 

どちらも、

言っていることは分かる。

どちらも、

間違っているとは思えない。

だから余計に、

分からなかった。

 

経営者として、何を選べば正解なのか。

 

昨日まで私は、

5店舗、10店舗と、

会社の未来を考えていた。

それが突然、

「明日、店を開けるのか」

そんなことを真剣に考える毎日になった。

 

 

でも、

決断するのは経営者の仕事だ。

誰も正解を教えてくれないのなら、

最後は自分で決めるしかない。

 

私は決めた。

 

「通常営業」

 

スタッフには、

自分なりに丁寧に説明した。

 

もちろん、

スタッフも不安だったと思う。

 

それでも営業を続けようと決めた理由は、

とてもシンプルだった。

 

「お客様の笑顔を絶やしてはいけない」

 

美容師として、

今、自分たちにできることをやろう。

 

当時の私は、

本気でそう思っていた。

 

もちろん、

それが正しい判断だったのかどうかは、

今でも分からない。

 

休業を選んだ美容室も正しい。

営業を続けた美容室も、

それぞれの事情の中で決断していた。

 

 

ただ私は、

通常営業を選んだ。

結果として、

私たちの店は営業を続けることができた。

 

しかし――

今振り返れば、

本当に大きな変化は、

店を開けるか、閉めるかではなかったのかもしれない。

 

新型コロナを境に、

それまで少しずつ進んでいた美容業界の変化は、

一気に加速していった。

 

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