30年目を迎える美容師の過去、現在、そして未来㊺

とある男性美容師の過去・現在・そして未来

会社の体制への反発があるとはいえ、逆に言えばこのような環境が自分を成長させてくれたことは確か。

そこは全く否定はしない。

 

たくさんの壁を与えられ、それを乗り越えるだけのスキルを身に着けさせてもらい、社内初のFCオーナーまで経験させてもらった。

美容師としては全国の上位10%ぐらいにはランキングするであろう年収もいただけていただろう。

これを自分の実力だけで成し遂げたとは思わない。

オーナーの私に対する期待とスタッフの支えのおかげであり、感謝以外の何者でもない。

今の私があるのも、会社のおかげであることは間違いないのだ。

 

しかし、

気がついたことがある。

たくさんのお客様に携わり、たくさんの売上を作ってきたが、

一人一人のお客様に対する想いは、どこか希薄な気がしてならなかった。

そして、毎日を楽しいと思えなくなっていた。

 

「お金さえ稼いでれば、誰も文句なんて言わない」

オーナーにはそう言われて今までやってきたが、お金と幸福感は比例しないような気がしてきた。

 

もちろん、お金がないよりは、ある方がいいに決まってる。

 

何かを得るには、何かを犠牲にしなければならない。なんて言うけど、

今の自分には「自由な時間」「自分の選択」が得られるなら、お金は多少犠牲にしてもいい。

 

そう思えて仕方がなかった。

 

意を決して、オーナーに会社との契約関係の破棄の意向を伝えることに。

ここに至るまでの私の会議での発言、態度などを見てきてか、オーナーはある程度察していたらしい。

「つまり、自分のやりたいようにやりたいのね?」

そう、そのとおり、そのまんまである。

 

本来は違約金が発生するのだろう。

他の幹部からは払うべきだと言われたが、そこはオーナーが「払う必要ない」と配慮してくれた。

 

FC第一号が離脱することは、今後のFCオーナーにとっても不安を与えるだろうし、本来なら「見せしめ」として違約金を払わせるべきなのだろうが、オーナーはそうはしなかった。

 

優しさなのか、顔も見たくないから早く去ってほしいのか、それは今でもわからない。

 

その後、全スタッフが集められ、私の退社が伝えられ、退社に至る理由の説明をさせられたが、何を話したか正直全く覚えていない。

 

全スタッフの前で、犯罪者のように吊し上げられる姿は、さぞ情けなかったであろう。

ある意味、それが「見せしめ」だったかもしれない。

 

会社を去る最終日、今までの感謝を伝えようと、オーナーに電話をしようと思った。

電話を手にとり、オーナーの番号をタップしようとするが、なかなかできない・・・。

 

感謝すべきなのか、謝罪すべきなのか、

もう散々話したうえで、これ以上なにを伝えるべきなのか・・・。

 

着信の画面に「オーナー」という文字が表示されて「ドキッ」っとしていた毎日を思い出す。

 ※着信音は「ダース・ベイダーのテーマ」だった

 

そしてそのまま、結局電話をすることはしなかった。

きっと優しい言葉をかけてくれるかもしれない。

 

そんな事をされると、何かあったときに、頼ってしまうかもしれない。相談してしまうかもしれない。

私は、自分の選択で、自分らしい結果を出すことを決意し、画面を閉じた。

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