会社の体制への反発があるとはいえ、逆に言えばこのような環境が自分を成長させてくれたことは確か。
そこは全く否定はしない。
たくさんの壁を与えられ、それを乗り越えるだけのスキルを身に着けさせてもらい、社内初のFCオーナーまで経験させてもらった。
美容師としては全国の上位10%ぐらいにはランキングするであろう年収もいただけていただろう。
これを自分の実力だけで成し遂げたとは思わない。
オーナーの私に対する期待とスタッフの支えのおかげであり、感謝以外の何者でもない。
今の私があるのも、会社のおかげであることは間違いないのだ。
しかし、
気がついたことがある。
たくさんのお客様に携わり、たくさんの売上を作ってきたが、
一人一人のお客様に対する想いは、どこか希薄な気がしてならなかった。
そして、毎日を楽しいと思えなくなっていた。
「お金さえ稼いでれば、誰も文句なんて言わない」
オーナーにはそう言われて今までやってきたが、お金と幸福感は比例しないような気がしてきた。
もちろん、お金がないよりは、ある方がいいに決まってる。
何かを得るには、何かを犠牲にしなければならない。なんて言うけど、
今の自分には「自由な時間」「自分の選択」が得られるなら、お金は多少犠牲にしてもいい。
そう思えて仕方がなかった。
意を決して、オーナーに会社との契約関係の破棄の意向を伝えることに。
ここに至るまでの私の会議での発言、態度などを見てきてか、オーナーはある程度察していたらしい。
「つまり、自分のやりたいようにやりたいのね?」
そう、そのとおり、そのまんまである。
本来は違約金が発生するのだろう。
他の幹部からは払うべきだと言われたが、そこはオーナーが「払う必要ない」と配慮してくれた。
FC第一号が離脱することは、今後のFCオーナーにとっても不安を与えるだろうし、本来なら「見せしめ」として違約金を払わせるべきなのだろうが、オーナーはそうはしなかった。
優しさなのか、顔も見たくないから早く去ってほしいのか、それは今でもわからない。
その後、全スタッフが集められ、私の退社が伝えられ、退社に至る理由の説明をさせられたが、何を話したか正直全く覚えていない。
全スタッフの前で、犯罪者のように吊し上げられる姿は、さぞ情けなかったであろう。
ある意味、それが「見せしめ」だったかもしれない。
会社を去る最終日、今までの感謝を伝えようと、オーナーに電話をしようと思った。
電話を手にとり、オーナーの番号をタップしようとするが、なかなかできない・・・。
感謝すべきなのか、謝罪すべきなのか、
もう散々話したうえで、これ以上なにを伝えるべきなのか・・・。
着信の画面に「オーナー」という文字が表示されて「ドキッ」っとしていた毎日を思い出す。
※着信音は「ダース・ベイダーのテーマ」だった
そしてそのまま、結局電話をすることはしなかった。
きっと優しい言葉をかけてくれるかもしれない。
そんな事をされると、何かあったときに、頼ってしまうかもしれない。相談してしまうかもしれない。
私は、自分の選択で、自分らしい結果を出すことを決意し、画面を閉じた。

