一時的に落ち込んだ売上も、
少しずつではあるが、回復していった。
もちろん、
売上が戻ってきたことは嬉しかった。
でも私が、
本当に元に戻ってほしいと思っていたものは、
別にあった。
スタッフとの時間だ。
社員旅行。
スポーツ大会。
食事会。
それまで当たり前のようにやっていた会社行事のほとんどが、
中止になった。
スタッフ同士で集まる機会は、
圧倒的に減った。
そして、
コロナが落ち着き始めても、
以前のようには戻らなかった。
会社が企画する行事そのものが減ったこともある。
ただ、
スタッフ側の参加意欲も、
以前より薄くなっているように感じた。
もちろん、
それが悪いわけではない。
仕事とプライベートを分けたい。
自分の時間を大切にしたい。
そんな価値観が、
以前よりも当たり前になっていた。
でも私は、
どこかで感じていた。
少しずつ「個人主義」になってきているな……。
そんな頃、
ある店舗の店長から申し出があった。
「もう、アシスタントを使わずに、
マンツーマンで仕事がしたいです」
お客様を掛け持ちたくない、と。
実は、
スタッフからも聞いていた。
「掛け持っているとき、
なんか機嫌が悪そうで……」
彼は、
美容師という仕事が好きだった。
仕事もしっかりしているし、
ユーモアもある。
ただ私から見ると、
少し「短気」なところがあった。
何人ものお客様を同時に担当する。
アシスタントに指示を出す。
次のお客様を待たせないよう、
時間を気にしながら仕事をする。
おそらく彼にとって、
そういう働き方そのものが、
大きなストレスだったのだと思う。
自分の目の前のお客様に集中したい。
最高のパフォーマンスをしたい。
その気持ちは、
私にも分かった。
私自身、
何人ものお客様を掛け持ちながら、
売上を上げていた時代がある。
数字は上がる。
でも正直、
「辛いな……」
と思っていたこともある。
だから私は、
彼の意思を尊重することにした。
アシスタントを使わず、
マンツーマンで接客する。
そして、
その働き方に合わせた給与体系も用意した。
彼は、
喜んでくれた。
彼が私や会社に対して、
不満を口にすることはほとんどなかった。
ただ一つ、
こんなことを言った。
「新卒はいらないです。
辞めさせてしまうと思うので」
つまり、
アシスタントはいらない。
その言葉は、
経営者である私には、
少し重かった。
なぜなら、
新卒採用とアシスタント教育は、
私にとってサロンの**「生命線」**だったからだ。
先輩が後輩を育てる。
その後輩がスタイリストになる。
そして、
また次の世代を育てる。
私はずっと、
そうやって美容室は続いていくものだと思っていた。
でも、
店長である彼が、
その仕組みを必要としなくなった。
もちろん、
彼が間違っているわけではない。
マンツーマンで、
一人ひとりのお客様に集中する。
それも一つの、
美容師としての働き方だと思う。
ただ、
会社が目指している店舗と、
彼が望んでいる店舗は、
少しずつ違うものになっていた。
会社としては、
人を採用し、
人を育て、
次の世代へ繋いでいきたい。
彼は、
自分のお客様に集中し、
自分のペースで美容師を続けたい。
どちらが正しい、という話ではない。
ただ、
向いている方向が違っていた。
それでも、
仕事はしっかりしてくれていた。
私は彼のことは好きだったし、
店舗のスタッフ同士も、
決して仲が悪いわけではない。
だから私は、
こう考えることにした。
これも一つの、サロンのカタチなのだろう。
時代が変われば、
美容師の働き方も変わる。
会社の中に、
いろいろな働き方があってもいい。
そう思いながら、
私は受け入れてきた。
しかし――
少しずつ、
スタッフ間にトラブルが起き始めた。
最初は、
小さな違和感だった。
だが、
その違和感は、
少しずつ大きくなっていった。
そして私は、
このまま放置するわけにはいかなくなった。

